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act 1

キャバクラに勤めて、丁度三年。
どこかで、三がつく数字の時は、仕事がやめたくなる、と言う言葉を季菜《 きさい》は聞いた事があった……。
三日、三ヶ月、そして、今日、三年目。

キャバクラに勤めるきっかけになったのは、ただ誘われたからっていう下らない理由だった。

ただココから凄かったのは、僅か3ヶ月でその店のNo1を引きずり落とし、
季菜がNo1キャバ嬢になった事だった。季菜を誘った友達は、いつの間にか、その店をやめた。
辞める際、どうしても辞めるのかと季菜が聞くと、自分が惨めな気分になるから、だった。
利口に考えれば、No1と近づければ、それだけ客との接点も多かったはずなのに、
その娘には、たまに比較される『それ』が女として耐えれなかったらしい。トップと引きかえに失ったものは友情。
ならば表面上の上辺だけ仲良くしといても、絶対にキャバ嬢の娘とは、深く付き合わないようにと決めた。

実際、店内は女だらけと言うだけあって、一部の女の子達の妬みやいがみあいは、日常茶飯事だった。

しかし類は友を呼ぶというだけあって、店内で深く人とは付き合わないと決めたのにも関わらず、
仲の言い友達は出来た。それがおおよそトップ10入りする様な女の子達ばかりだった。
人間との付き合い方や、距離の取り方をよく知っているだけはあり、季菜とも距離も、接し方も、
その時どきの様子を伺って、先に先にと思いやってくれていた。

店の売り上げや、順位は、確かに白熱したものはあったが、上位の方、特に二位から10位程までは、
コロコロとよく移動していたし、そんな威圧的な雰囲気ではなく、むしろ、高校生の延長の様な楽しさがあった。

そう今日までは。

「やっぱ……いずれ落ちる時もくるんだろうなって……思ってたけど……」
季菜がため息を付くと、冬の空に、白い息がふわりと舞った。
ため息の理由。
二位に落ちてしまった事に対してではなかった。
むしろ、若い子がどんどんと入ってくる中、よく頑張ったと褒めてやりたいくらいだった。
実際、基本負けず嫌いなので、入って三ヶ月は本当に頑張ったし、一位になってからも、いつも恋人はお客様状態だった。
ずっと彼氏が居なかった訳ではない。自慢じゃないが、季菜は当たり前の様にモテた。
けど、続かない。軸が客の方にあるのが問題だと言う事に気付いてからは、彼氏さえ作っていなかったけれど……。
 
他の娘に、欲求不満にならないかと同情されたが、その点はあまり問題ではなかった。

しかし自分もいつまでも、キャバ嬢じゃいられない。
そう思っていた矢先に、母親からの電話で、結婚はまだかと言われ……。
考えたことはあるけれど、自分はまだまだ店の顔であって……。
などと、理由がましくずるずると今まできたけれど、やはり何処かで歯止めをかけなければ、落ちていけば、後は早いと思っていた。

だから、母親にも、自分にもひとつのルールを作っていた。
二番になったら、店をあがろうと……。
辞める理由を考えて、その通りになってしまえば、今度は辞めなくていいルールを早くも自分が考えないようにしている事に気付き、季菜は思わず自嘲気味た笑いをしてしまう。

辞めたいなら、やめさせてもらえばいい。
辞めたくないのなら、まだまだNo1になるチャンスはいくらでも。来月にだってあるんだからそのままで居たらいい……。

思ってはみるが、季菜はどうしても年が気になった。
早くに結婚して、早く子供を持ちたいと、高校の時は言っていた。
だが現実は、相手すら居ない。これから相手を見つけて、更に結婚して、妊娠して、10月10日待ってからの出産。
逆算して考えると、今から頭が痛くなった。

若い母親でありたい。
そう思うなら、やはり人生の勝ち組になりたい……。

店を出てから、もう10数回はついたと思われるため息の中まだまだ活気のある深夜の街を歩いた。
他店のNo1や、ホスト……。客……。会話が耳に聞こえてくるたび、自分はこの中から、本当に抜け出したいのか、抜け出せるのか……不安でたまらなくなっていった。



……To Be Continued…

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