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act 2

「ねぇ、本当に辞めるつもりなの?」
落ち着いた声で、真剣に話を切り出したのは、この店、『姫嬢』の現No1の沙柚だった。
まだメイクをしてもらっている季菜より早く終わった様で、椅子を季菜の方に向けてジッと見つめている。
まだこの部屋には季菜と沙柚、そしてメイクさんだけだったが、季菜はシィ〜と指を立て、また鏡の方へとむいた。

「ま、まだ決まってる訳じゃ……」
「だって、さっきの口ぶりじゃ、そんなニュアンスだったから……」
沙柚は拗ねた様に口を尖らせてみせた。
No2だった、とは言えど、20歳になったばかりの女の子であって、肌の艶も、若干季菜よりはある様にも見えた。
とは言えど、季菜の肌がどうこう言ってる訳ではなかった。季菜の肌の質は、元々質が良かったおかげもあって、
エステにかける時間も、最低限だった。

季菜はミディアムカットで、客からは20歳前だろう?なんてよく言われていたが、
沙柚も、巻き髪なんて、手入れが面倒くさい、なんて言うふざけた理由で珍しいショートカットだった。

キャバ嬢といえば、思い浮かべるのは長い髪を使ったヘアースタイルだったが、
この二人のヘアースタイルは、どちらかと言えば、シンプルなものだった。しかしその髪から見える項(うなじ)や、耳、鎖骨が客にはたまらなかったらしい。
勿論、それだけでこの地位を築きあげる程、この世界は簡単ではない。
美貌は勿論、会話のテクニック……それらがバランスよくあってこそだった。

「辞めちゃっていいの?」
沙柚の再度の言葉に、季菜は思わず本音が漏れた。
「だって……分かってるよ。もう少しでアレも終わるし……。でも、でもね。私ちゃんと、ママになりたいの」
「ママ?!」
今の言葉が信じられないとでも言うように、キャバ嬢ではなく、素の顔で沙柚はつっこんだ。
「そうママ! だって、今の時代、女もバリバリ仕事して、それなりに地位だって築ける。
でも、どっかで結婚しちゃったら? 好きな人が出来ちゃったら? 好きな人の赤ちゃんだって、きっと欲しくなる。
でもその時私何歳? その子が生まれて、幼稚園行って……小学校上がって……参観日に行く私って何歳? 
そりゃ、バリバリ仕事してて、給料も男顔負けで、独身でも、全然楽しい人もいるかも知れない。
でも、でも私は、やっぱり結婚だってしたいし、子供だって欲しい。でも今まだ恋愛だってしてないんだよ?」

まくし立てる季菜に、沙柚は、ボー然と聞き入った。
いい終えた季菜は、沙柚に胸の内を話してしまったことで、気持ちが何となく楽になった気がして、自分が本当に悩んでいるんだと、改めて実感してしまった。
「でもさ、でも――――」
「おはようございま〜す!」
沙柚の言葉を遮るように入ってきたのは、出勤してきた女の子達だった。
言いたい事を止められた形になった沙柚は、もぅ! と鼻息荒くした。季菜も、この話はお終いとでも言うように、メイクさんに、一度目配せをした。
すると、ほんの少し、微笑んだ後、静かに頷いたので、季菜はほっと胸を撫で下ろした。




……To Be Continued…

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