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act 8


その日の店の終わり、姫嬢の看板の光が落とされた頃、再び季菜は質問攻めにあう羽目になっていた。

「季菜さんっ! あの新と知り合いなんですか?! そうなんですか?!」
言ったのは莉亜だったけれど、その後ろの方では操も、そして茜も同意権だと聞き耳を立てていた。
そしてそれは他の女の子にも言える事だった。
新が何故店に来たのか、季菜とはどういった関係なのか?
聞きたい事は色々あるけれど、とりあえず仕事を終わらすまではと我慢していた様だった。

莉亜の質問に、どういって答えていいものかと季菜は沙柚に目配せをしてみた。
けれど、どうやらいい答えは貰えなかったらしい。

まさか、一発ヤっちゃいました。なんて言えるはずもなく……。
かといって、電話番号さえ知らないのであって。

何と言っても、色々と突っ込まれるのは必然的だった。

「ちょ、ちょっとした知り合い?」
疑問系になってしまったが、莉亜達にとって、あまりどうでもいい事だったらしい。
重要視すべきは、あの新と季菜が顔見知りだったと言う事。
「どんな風に知り合ったんですかっ?!」

そうくるだろうと思っていたけれど、季菜は上手く言葉が出てこない。
「どんなって……」
ナンパされました、そんな事言えるはずもない。
そんなナンパ野郎をストーカーと勘違いしそうになったあげく、泣き出し、結局誘いにのり、あげく家まで上げて、自分から手を出したのだ。
季菜は悩んだ。



「やっぱり季菜さんスゴすぎです! あの新さんと知りだなんて! もう素敵すぎですっ! 初めて生で見たけど、テレビなんかで見るより、ずっと格好よかったぁ!」
茜は、言いながら、今もその新の残像にうっとりとさせている。
「超有名人ですよね?! あの人にあこがれてホストになったって人、かなりいるもん!」
興奮しているのは莉亜も同じだった。
もっと言えば、他のキャストもそれは言える事だった。



「あの……季菜さん、新さんと付き合ってるんですか?!」
「ぇえっ?! な、何言い出すっ――」
突発的な操の言葉に、季菜は不自然なほど驚いてしまった。

「あ! それ私も思ってた。っていうか、そんな事、さらりと言えちゃうなんて、さすが操っ! 頼りになるぅ!」

どうやら感じていたのは、口を開いた莉亜を含め、全員だったらしい。
あの新と季菜のやりとり。これは痴話喧嘩か? 思ってしまっても、おかしくはなかった。
「ちっがーうっ! 違う違うっ!」
必死に弁解を始めた季菜だったが、どうやらそれは、時既に遅し、だった。

「マジで?! あの新と? スゴすぎ!」
もう駄目だった。何度違うといっても、茜や利亜達は納得してくれなかった。
季菜は頭をかかえて沙柚に泣きついた。
しかしだからと言って、何かどう変わると言う訳でもなく……。
本当ならば、じゃそれでいいよ。そう言ってしまえば簡単だった。
けれど実際は、金輪際逢う予定もなく、まして付き合っているわけでもない。

違うと言っているにも関わらず、聞く耳をもたない莉亜達のおかげで、自分は嘘つきの汚名をかぶる事になってしまう。
ましてこの事が新の耳に入らないという保障は何処にもない。
むしろ、あれだけ有名だなんだという位なのだから、きっと耳に入ってしまう。

季菜は頭を悩ました。

すると、やっとと沙柚が口を開いた。
「付き合ってなんかないわよ。ただ新さんが季菜に興味を持っているのは確かね」
沙柚の言葉に、それじゃ面白くないと茜は文句を言い出した。

「せっかく付き合ってると思ったのになぁ……。――でも、さすが季菜さん! あの新でも相手にしないなんてっ!」
季菜は耳が痛かった。
その横では、沙柚が苦笑している。
しかし、沙柚のおかげで、嘘つきの汚名を着ずにはいられたと、季菜はホッと息をついた。




初めは、正直興味が沸かなかった。
けど、今は、興味というより、気になっては居た。

そんな伝説になる程のホストならば、女にはきっと不自由してないはず。
玩具になるつもりはないと思ってる心は、今も変わらない。
でも、何で自分に、まして店まで足を運んだのか、理由を聞きたいとは思った。

彼氏なんて、もう居なくなって、どの位経つのかさえも忘れた。
別に欲しかったわけじゃない。自分にはもっと、もっと大切な事があったし、それを後悔するつもりもなかった。
けど、体を重ねた時、正直男に飢えていたのか、何て思ったりもした。

恋愛。
今更、自分に恋愛、そして結婚なんて出来るのかと、季菜は不安になった。
この道を捨てられる事が出来るのか?
目の前の仲間を捨てて、キャバクラに勤める前の自分に、戻ることが出来るのか?
それはお金の事ではなかった。
この世界から、離れられるかと言う事……。





帰り際、沙柚に、家に来るかと誘われたが、そんな気分じゃなかった季菜は、首を振った。



自分が選ぶ選択肢は、今のところ、そんなに多くはないはずなのに、決める事ができない。
見上げた真っ暗な空は、昼間の様に自分の中の何かを照らしてくれる事はなく、季菜ごと、逆に吸い込まれていきそうだった……。





……To Be Continued…

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