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act 6
質問攻めになってでも、言わずにはいられない。
そう季菜は、仕事に行く時間を、いつもより1時間半早めファミレスで沙柚と会っていた。
事の次第を話すなり、沙柚は注文したホットコーヒーを口からふきこぼした。
「なっ! なんっ! それ、本当?」
「嘘みたいだけど、本当。って言うか、私が一番信じられない」
季菜は、大きく息を吐いた。
沙柚は、ホットコーヒーを横へとずらし、テーブル越しに季菜の側へ寄った。
「やっぱ欲求不満だった?」
「違うから!」
「じゃ何で? そんなキャラじゃないでしょう? 客でもないんだし」
「客でもしないから」
「でもっ! でもさ、そんなにイイ男だったの? 季菜がシちゃってもイイって思うくらい、イイ男だった?」
やはりと言うべきか、沙柚は質問を立て続けにしてくる。
けれどこれは想定内。
こうなる事は分かっていても、誰かに話しをしたかった。
その理由は分からない。
沙柚が言うように、体を重ねてもいいと思うかどうかは別として、認めざるえない程に格好よかった。
あの寝顔を見た瞬間、思わず胸がなった。
体を密着され抱き締められた時、不覚にもドキドキとした。
あの男に組み敷かれ、あの男の下で何度となく鳴いた自分を思い出したら、嫌でも体が疼いた。
「ねぇ……もしかして、好きになっちゃった?」
物思いにふけってた自分に、いきなり問われた質問。
今度は季菜が驚く羽目になった。
「なっ、ナイナイ! ありえない! そんな事」
「だって、ナンか色々と想像してたみたいだから」
意地悪そうに沙柚は笑みを季菜に向けた。
意味も分からず季菜は頬を染めた。
確かに体の相性は良かった。それもカナリ。
と言うより、新が、上手かった。
女を知り尽くしていると言うよりは、大切にしてくれている。そんな感じだった。
体の相性だけでは、あそこまで気持ちよくなれない。そんな風に感じれた。
あれは、まるで恋人同士の……。
そこまで思った所で、珍しく季菜の顔が、本格的に赤く染まったので、沙柚は勝ち誇った様な笑みを浮かべた。
「そうかそうか。さっそく恋愛をする相手を見つけたんだ?」
「ちっ、違うから! 別にそんなんじゃないから!」
季菜は、一気にカラカラになった喉を潤わそうとストローに口をつけた。
けれど、内心では、沙柚の言葉に、過剰に反応してしまった自分に驚いているのも事実だった。
別に、沙柚の言葉なんて、鼻で笑いながらスルーしてしまっても良かった。
きっといつもの季菜なら、そうしていた。
なのに沙柚の言葉に反応してしまった事で、自分の中で気持ちが困惑してしまっているのは間違いないと気付いた様だった。
「まだ気付いてないだけかもしれないし、このまま気付かないままかもしれないし、とっくに気付いているのに、知りたくないだけかもしれないし? 別に其処は問わないで置くけど」
そう沙柚は、笑った。
言い返そうかと思った季菜だったが、更に突っ込まれるのが恐くて、開いた口を閉じた。
「でもさぁ、そんないい男なら、私も見たかったな」
「何か、新って言ってたけど……」
「新……?」
季菜の言葉に、沙柚は首をかしげるそぶりを見せた。
「どうしたの? 知り合い?」
「えっ? ううん、違う違う。そうじゃなくて……でもまさかねぇ?」
殆ど季菜の言葉が頭の中に入ってない様だった。
ぶつぶつと何かをいいながら、ときおり季菜を見ては、首を振る。
けれどやっぱり、とまた考えるそぶりを見せて……。
「ねぇ、知ってるの?」
「う〜ん。そうじゃなくてね。でもいまいち信じられないっつーか……だってあの新だったら……いやいや、やっぱありえない。あの新が……」
もう絶対に自分の言葉は届いてないと、季菜は頬を膨らましてプンプンと怒りはじめてしまった。
結局、季菜が何度問い詰めても、ありえないと言うばかりで、沙柚がその男の事を言う事はなかった。
二人で店に入ると、季菜の側に、我こそがとかけつけたのは、操だった。
その瞳は、既に潤んでいる。
「季菜さん! メールも電話もしたのに、何で出てくれないんですか?!」
そうだったと今更季菜は思い出した様だった。
操だけではない。
結局、全員からのメールや着信が昨夜入っていたのだった。
けれど、あの出来事が衝撃すぎて、季菜は今のいままで忘れていたようだった。
操は、まるでフラれた直後の女の様に、季菜の体をしっかりと掴み、嫌いになったんですかと今にも号泣しそうな勢いだった。
その後に続くように、茜と莉亜が口を開いた。
「冷た過ぎます! 季菜さん! やっぱり私達を置いて辞めっ――」
興奮する茜を、寸での所で沙柚が口を塞いだ。
こんな所で、季菜が辞めるかも知れないなどと言ったものならば、店はたちまち大騒ぎになってしまう。
沙柚のすばやい行動に季菜はホッとしつつも、少々の罪悪感を覚え、息をついた。
「ごめん、昨夜は色々とあってね。それについては今度ゆっくり話せたらって思うんだけど、とにかく連絡しなかったのは本当ごめん」
操は、まだ気持ちがおさまらない様だったけれど、素直に季菜があやまってくるので、それ以上何も言う事ができなかった。
メイクをする間も、操はずっと季菜にくっついている様だった。
慕っているからとは言え、本来ならばこんな風にくっついている娘ではなかったのだが、季菜の爆弾発言を聞いてしまった後ゆえに、いつ辞めるのか、本当に辞めてしまうのかと心配で仕方がない様だった。
店がオープンしてすぐ、季菜が指名された。
次々に季菜を指名してくる客。
やはりこの間の順位は、間違いだったのではないかと誰もが思った。
実際、一位を取った沙柚との差もほんの僅差。
しかしその後を続くように、沙柚も指名されていく。
茜、莉亜、操、それぞれが指名していくなか、本当に、本当にいきなり、店内が沸いた。
それも、沸いたのは、客が原因ではなかった。
キャスト。女の子達が沸いたのだった。
その様子に、季菜が気付くに時間はかからなかった。
まず、隣の席に居た沙柚の様子に気付いた。その表情は、唖然としている。
そしてぐるっと操や莉亜、茜の様子も沙柚と見回すと、同じように唖然とさせている……。
やっと季菜は入り口に視線をやった。
そして、その二秒後、沙柚達と同じ様に、その口を唖然とさせた……。
……To Be Continued…
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