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act 5



起きた時には、確かに【家】だった。
季菜は、いつもの様に軽く目を擦り、二、三度、ぱちぱちと瞬きをした。
そして何気に視線を落として、初めてその状況に気がついた。

口からは、言葉が出ず、ぱくぱくとだけ動いている。
それだけの衝撃が、朝っぱらから季菜を襲った。

――まさかの朝チュン――

ベットの下には、二人分の洋服、下着。
そして一糸纏わぬ自分……。
自分の腰にと手を回しているのは、見間違う事のない顔。
遠めから見ても分かる程の整った顔。
季菜は信じられず、口にと手をやった。

(どうしよ……)
一気に血の気が引いた。
段々と思い出してきた記憶によれば、誘ったのは、どうやら自分の方。
二軒はしごした結果、紳士に自宅まで送ってくれ、すぐに部屋から出ようとした新を
酔っていたとは言え、押し倒し、口を塞いだのは……自分の方。

普段なら、こんな事、絶対にしない。大体、酔いつぶれるような事さえありえない。
しかし、確かに昨日は酔っ払ったのだ。頭の中でこんがらがる状態から逃げ出したい、そんな衝動に駆られたのかは、
今の自分には分からないけれど、確かに、目の前の男と、自分は、体を重ねた。

季菜は、天井を仰ぎ、目を瞑った。
すると、もぞっと腰に回された手が動いた。ギョッと季菜が下を見ると、新が体をもぞもぞと動かし、ゆっくりと瞼をあけた。
言う言葉が見つからず、唖然と見つめる季菜。新は、下から手を伸ばすと、季菜の首へと手を絡ませ、そのまま下へと引いた。
体制が崩れた訳じゃなかったけれど、季菜の体はそのまま新の胸板へと重なった。

「……まさか、覚えてないとか言うなよ?」
低く、まだほんのちょっとかすれた声で新が言う。
「いや……あの……、覚えてます」
目はそらしたけれど、季菜ははっきりとそう言った。新は以外そうに、少し目を大きく開けた後、イタズラそうにふっと笑った。
「じゃ、あんたが誘ったっつー事も、覚えてるんだな?」
コクリと季菜は頷いた。
「俺のキスに、応えていた事も覚えているんだよな?」
言葉で、今更思い出した季菜は、まるでうぶな少女の様にカッと頬を火照らせた。
そんな季菜に、イタズラな新は、更に言葉を続ける……。

「俺の愛撫に、喉をゴロゴロ鳴らせては、噛み付いた事も……」
からかいに耐えられなくなった季菜は、枕を引っつかみ、新の顔面へと投げつけた。
枕の下では、クツクツと新が笑っている。季菜は頬を染めたまま、下着を取り、そそくさとはいた。
脱ぎ捨てられた下着や、服を見ると、生々しく昨夜の映像が浮かび上がる。
決して嫌じゃなかった。それどころか、自分に触れるその手は、指先まで優しかった。
何度蕩けそうになったか分からない。何度甘く鳴いたか分からない……。
昨日初めて会ったにも関わらず、自分の頬に触れた手も、自分に口を重ねるその温度も、とても心地よくて、幸せだと感じた。

無言で服を着てる季菜の後ろでは、ライターでタバコに火をつけ、くつろいでいる新が居る。
自分から誘っておいて、出て行けとは言いずらい。けれど、此処に居てもらっても困る訳で……。大体にして、自分はこの新と名乗る男の事を、何もしらない。

「……ねぇ、名前は?」
「昨日言ったと思うけど」
「違う。あなたホストでしょう? 本名よ」
「宝場 新。アンタは?」
「さ、桜庭 季菜」

言った後、何で本名を言ってしまったのかと思った。同伴だって、アフターだって、全て擬似世界の延長。本名、しかもフルネーム何て、今まで言った事なんて
一度もなかったのに。けれど、新の方も、さらりと本名を言ってのけたのだ。
もしかしたら、全くの嘘かもしれないけれど、何となく、本名だと季菜は直感で感じた。
ともかく、なんだか、この男の側に居ると、素の自分がポロポロと剥がれ落ちていきそうな思いに駆られた。

「あ、あの……昨日は、ごめんなさい。――で……今回の事は……」
「すげー寝癖」
「ぇえっ?!」
言葉を邪魔されたにも関わらず、またもや季菜は新にのせられた。
跳ねた寝癖を確認すると、声をあげ、そのまま新を忘れ、バスルームへと消えて行った。そして、まもなくシャワーの音がした。

そんな様子を、新は柔らかい笑みを浮かべ見ていた。
バスルームから季菜が出てこないのを確認すると、新は体を起こし、何事もなかった様に、服を着た。
鏡を見て、身だしなみを整え、もう一度、そのバスルームの扉を見つめた。
まだシャワーの音は止まない。
新は、口元に笑みを浮かべながら、昨夜放り投げた鍵を拾うと、背を向けた。





……To Be Continued…

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