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act 14



もう、いい加減にしてほしい……。
そう思う季菜の心は、悲しみで溢れていた。
振り回されているのに、振りほどききれない自分にも腹が立った。

感情が高鳴るとともに、内側からは涙があふれてくる。
全身が総毛立つ感覚に襲われた時には、瞳の奥が滲んだ。
見られたくない。唇を噛み我慢したけれど、視界はどんどんと歪んだ。

「っ…………」

噛み締めた唇、興奮した心。瞬きをすると、ぽろりと涙が頬の上に伝った。
それをすぐに掌で拭ったけれど、新の目には、しっかりと映った後だった。

隠しきれたなんて思ってない。だからこそ逃げたくて、季菜は無理やり新の横を通り過ぎた。
しかし、その通り過ぎたすぐ、新の手は季菜の腕を掴んだ。
季菜が息をひゅっと飲み込んだ時には、新の腕の中だった。

「なっ……は、離して――――」
「嫌だっつってんだろ。絶対離さねぇ」

この男の言葉に、早く脈打つ自分の心臓が、憎くてたまらない。
新の腕は、季菜の体をすっぽりと包んでいる。
その手は、決して緩められる事はない。

新の匂いが、季菜の鼻をくすぐった。
自分のベットで、無意識のうちに、探していたこの匂い。
遊ばれていると分かっていても、恋しくて、切なくて、泣かせてくる、この匂い。

馬鹿な自分に、情けなくて、けれど逢いたかったこの気持ちに負けて、季菜の瞳からどんどんと涙が溢れてくる。

(好きになっちゃいけない。――――絶対、好きになっちゃいけない)
何度、どれだけ思ってみても、もう遅いなんて事、本当はとっくに気付いている。
ごちゃごちゃになった自分の気持ちを、制御できなくなった季菜は、ただただ、新の腕の中で泣き続けている。



「俺が……惚れたっつったら……アンタどうする……?」
新の腕の中、一瞬にして止まった涙と、開かれた瞳……。

「何……言って……」
「アンタに惚れてる」

季菜の瞳は、信じられないと大きく震えている。
心臓の音は、季菜の体を浸食していく。
「――――嘘」
「何でアンタが俺の心を嘘だと決め付けられる?」

嘘以外、考えられないじゃない。
必死に、期待しちゃ駄目だといいきかせた。
信じたいと思う気持ちが強ければ強い分、彼はホストだと、今まで数多くの女を落としてきた男なんだと思わずにはいられない。

季菜は、新の腕の中から、もがくように逃げようとした。
しかし季菜の体をしっかりと掴んでいる新には、まったくといっていいほど敵わない。
「散々……散々っ……傷つくような事いって……私で遊ぶような真似して、信じられる訳――――」
高ぶった感情を吐き出すようにでた言葉の途中、それは新の唇で塞がれた。

「やめっ――やめっ――!」
逃げるように離された唇を、追いかけるように新は求め、もう一度重ねた。
体をバタバタとさせてみるが、華奢な季菜の体を巻き込むように抱く新からは逃げられない。
何度唇を無理やり離しても、何度でも唇を求め、塞がれた。

唇を塞がれるたび、自分の中で沸き起こる感情に季菜はついていけず、切なそうに、嗚咽をだした。
もうしないでと俯く季菜を、新はぎゅっと抱きしめる。

「確かにアンタをからかってはいたが、別に本当にオモチャだとは思ってねぇ。ただ、俺はアンタに惚れてる。そうさっき気付いた。もう止められねぇ」
俯く季菜の耳に入ってくる新の声は、ひとつだってからかいの色は混じってなかった。
それでも、彼はホストだと、女の気持ちは、女以上に扱うのがうまいと思う気持ちは、季菜を素直にしてはくれなかった。

季菜は、無言で首を振ると、鼻をスンと鳴らしながら、ゆっくりと新の胸板を押した。
ゆっくりと離れた二人の体を、新はまた近づけようとしたが、それを季菜は拒んだ。

キャバ嬢のてっぺんを張ってきた自分だったけれど、自分はこんなにも女だったんだと嫌でも感じずにはいられなかった。
離された新が、どんな表情をしているのかは季菜には分からない。
ただ、必死に、顔の涙を拭って、一歩踏み出した。

車で待っているであろう、刹那の元へと……。





……To Be Continued…

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