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act 12


翌日の朝9時に新が立っていたのは、季菜のマンションだった。

実は、昨夜、新が向かった先は店だった。
謝る気になったのか、季菜の様子を伺いにきたのか……真意は分からなかったけれど、確かに新は店に来た。
しかし店が休みだと知ると、新はこのマンションにきた。
しかし此処でも季菜は居なかった。

新自身、何故こんなにも季菜を追う様に足を進めるのかが、不思議だったが、頭ではなく、気持ちがそうさせていた。

車の中で30分ほど待っただろうか、時間にして9時半。
携帯を聞いとけば良かったと新は思う。

他の女なら、自分が動くより早く、きっと携帯を教えてくれと言ってただろう。
季菜が物珍しいのか、だから反応が面白くてついついかまってしまうのか?

考えたけれど、結局中途半端で考えるのをやめた。

そして今日、目が覚めた時にふと頭に浮かんだのが、季菜のあの顔だった。
今まで、極力どんな場合でも女は泣かさないようにとしていた。
確かに泣かすと面倒になりがちだという事も理由のひとつだったけれど、決してそれだけではなかった。

季菜の顔が、頭から離れない。
そして気がつくと、服を着ていた。


新がマンションの前に着くと、少し、昨日開いていなかった窓が開いていたので、帰ってきたのだと分かり
インターホンに手を伸ばした。
押してしまった後、やはりまだ早かったかと思ったが、中から物音がしたので、季菜が起きていると分かった。

そして、ガチャリと開かれたドアの隙間、新は、唖然となった。


「ったく、誰だよ、こんな朝っぱらか――――」

思わず絶句したのは、新も、その新の前でTシャツとジャージ姿で立っている男も同じだった。
しかしすぐにジャージ姿の男の目つきが変わった。

「何でアンタが此処を知ってんだ? つーか何で此処に? あいつに何か用?」
男の口ぶりは、さも新の事を知っている様だった。
そして、それは新の方にも言える事だった。

「それはこっちの台詞だ。何でお前が此処に居るんだ?」
男の切れ長の鋭い目は、見ただけで女を夢中にさせてしまいそうだった。
ジャージ姿と言うラフな格好であるにも関わらず、その男の魅力は、新から見ても、まったく失われていない。
新はこの男を知っていた。

同職。
ホスト。名は刹那と言う。

新自身こそ気付いていないが、その眼光は、鋭く光っていた。

「俺が先に――――」
「刹那ぁ〜」
二人の言葉を挟むように入れられた声の持ち主は、季菜。
刹那と呼ばれた男は、一瞬中へと目をやると、すぐに新の方へと視線を戻した。

軽く舌を鳴らした刹那は、面倒くさそうに項をかいた。
「今取り込み中なんだよ。アンタが何で季菜の事知ってるかは知らねぇけど、帰ってくんねぇ?」
言った直後、早くもドアを閉めにかかった。
しかしそれを新は止めた。

「テメーに指図される覚えなんざ、ひとつもねーんだよ」
刹那にむけられたその視線は、明らかに敵意だった。
新は強くドアノブを引くと、強引に中へと入った。

「何してんだっ! テメーはっ」
それに引く刹那でもなく、一瞬にしてその場は一触即発な雰囲気になった。
しかしこの雰囲気を木っ端微塵にしてしまったのが、またもや季菜の声だった。

「刹那っ! さっきから誰と話してるの?! さっさとご飯食べちゃって、一緒に買い物に行くって――――」

季菜が息を引き込んだのが、刹那と新にありありと伝わった。
もともと大きなくりくりの目を、更に大きく広げ、新と刹那を交互に見ている。

「なんっ……何で……」
季菜の言葉に、二人の間に関係があると見た刹那は、ひどく面白くなさそうに、冷たく新を方に視線をやった。
戸惑っている季菜だったけれど、この状況をマズイと判断したのか、何か話題を切り替えようと、下唇を噛んだ。

「と、とりあえず刹那、ほらっ、ご飯食べ――――」
「何で此処を、コイツが知ってんだ?」
必死に話を切り返すも虚しく、刹那が言葉を遮った。

「それは……」
「つーか俺も聞きたいね。何でコイツが此処を知ってんだ?」
今度は新がつっこんできた。

季菜は、空を仰ぎ、唇を噛んでは首をぶんぶんと振っている。
その表情は、誰か助けて、そう切実な思いを表わしていた。




……To Be Continued…

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